大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡地方裁判所 昭和38年(ワ)1136号 判決

主文

被告等は、各自、原告両名に対し各金一七三万一二〇八円及びこれに対する昭和三七年一一月二二日以降右完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は、被告等の連帯負担とする。

原告等のその余の請求を棄却する。

この判決は、原告等において、被告姜烱泰、同姜末奉伊に対し各金一五万円の担保を供することを条件とし、被告金栄洛に対しては無条件で、第一項に限り、夫々仮りに執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、「被告等は、各自、原告両名に対し各金一九〇万八〇八〇円及びこれに対する昭和三七年一一月二二日以降右完済に至るまで各年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告等の連帯負担とする。」との判決並びに担保を条件とする仮執行の宣言を求め、その請求原因として、

一、被告姜烱泰、同姜末奉伊は、昭和二九年頃から屑鉄回収販売を業とする光神商会の共同経営者であり、被告金栄洛は、右光神商会の被用者であつて、同年頃から、同商会の物品運搬その他の業務を担当していたものである。

二、被告金は、右光神商会の義務の執行として、同商会の屑鉄を、その取引先である門司市の問屋に納入するため、昭和三七年一一月二〇日の昼頃、被告恙烱泰、同恙末奉伊の所有に係る普通貨物自動車(福一す七六六号、以下単に加害車と称す。)に屑鉄を積載して、同自動車を運転して、右商会を出発し、門司市に至り、右屑鉄を納入して、右商会への帰途、同日午後七時一五分頃、福岡県粕屋郡古賀町大字久保花見の国道(幅員九・六米、うち中央舗装部分の幅員約七・六米)を、時速約四〇粁の速度で、道路左側部分を進行中、前方同一方向に進行する普通乗用自動車を、その右側から追越そうとしたのであるが、当時は、降雨と靄のため、前方約三〇米しか見透しがきかず、路面は濡れて車輪がスリップし易い状態にあつたので、このような場合、自動車運転者としては、何時でも急停車し得る程度に速度を適宜調節して進行すべきは勿論、必要以上に道路右側部分にはみ出ないように進行し、もつて事故発生の危険を未然に防止すべき業務上の注意義務があるにも拘らず、これを怠り、必要以上に自車を、道路右側の舗装部分右端寄りに乗り入れ、時速約五〇粁の速度で追越にかかつた過失により、偶々、進路前方約三〇米の道路右端寄りを訴外花田武明と共に対面歩行してきた訴外松尾和信との衝突の危険を感じて、ハンドルを右に切ると共に急制動の措置をとつたが、自車を右斜前方にスリップさせて、右松尾和信に車体右前方を衝突させ、よつて、同人に対し脳損傷頭蓋内出血等の傷害を負わせ、翌二一日午前一時二八分頃、福岡市大字堅粕、九州大学医学部附属病院において、同人を死亡するに至らしめた。

三、(一) 被告姜烱泰、同姜末奉伊は、前記の如く、加害車を所有して、前記光神商会を共同経営しているものであるところ、本件事故は、被用者である被告金が加害車を運転して、その業務に従事中生ぜしめたものであるから、自動車損害賠償保障法第三条(以下自賠法第三条と称す。)に基き、本件事故によつて生じた損害を賠償すべき義務があり、被告金は、直接の加害者として、民法第七〇九条に基き、右賠償の責任がある。

(二) 仮りに、加害車が、本件事故当時においては、被告姜烱泰、同恙末奉伊の所有ではなく、被告金の所有であつたとしても、(イ)被告金については、自賠法第三条に基き賠償責任があり、(ロ)被告姜烱泰は、加害車について、その所有者名義及び使用者名義を、被告姜末奉伊として登録し、且つ同被告名義で、自動車損害賠償責任保険に加入しているものであるのみならず、被告金が、加害車の車体に、自己の営業の名称たる光神商会と表示したままで、加害車を使用して物品の運送をしていることを知りながら、被告金に対し、専属的に加害車による物品の運送を請負わせていたものであるから、同様自賠法第三条の運行供用者に該当する。(ハ)被告姜末奉伊は、被告姜烱泰に対し、前記の如く、自己の名義を使用することを許諾したものであるから、加害車の運行供用者たる外観を表示せしめたものとして、同じく自賠法第三条の運行供用者に該当する。

四、本件事故によつて、訴外松尾和信及び原告等が蒙つた損害は、次のとおりである。

(一)  訴外和信の損害

1  得べかりし利益の喪失による損害

訴訟和信は、当時二六才一〇ケ月(昭和一一年一月一五日生)の男子で訴外三機工業株式会社に勤務し、一ケ月平均金二万円(月給金一万七〇〇〇円、年間手当金四万六〇〇〇円)の収入を得ていたものであるところ、その生活費及び就業のための費用は、収入の約四〇%と推察されるので、同人の一ケ月間の純収益は、金一万二〇〇〇円(一年間の純益は、金一四万四〇〇〇円)である。

しかして、右和信の平均余命は、四〇年であるから、同期間中における同人の得べかりし利益は、金五七六万円である。

そこで、これをホフマン式計算法に従い、年五分の民事法定利率により中間利息を控除し、本件事故当時における一時払の額に換算すると、金三一一万六一六〇円となり、訴外和信は、本件事故によつて死亡したことにより、右と同額の得べかりし利益を喪失したことになる。

しかして、右損害に対し、自動車損害賠償責任保険による保険金五〇万円を、原告等において受領したので、右損害は、これを控除した金二六一万六一六〇円となつた。

2  慰藉料

訴外和信は、県立鞍手農業高校(定時制)を優等の成績で卒業し、居住地の若宮町青年団長を勤め、町民からの信望も厚く、その将来を嘱望され、前途には大いに期待し得べきものがあつた。しかも、本件事故について、右和信には何等の過失もなかつたのであるから、右和信の本件事故によつて蒙つた精神的肉体的苦痛は甚大である。

よつて、これが慰藉料としては、金八〇万円をもつて相当と考える。

(二)  原告等の相続

原告等は、訴外和信の父母として、前記1、2の各損害賠償請求権合計金三四一万六一六〇円の二分の一である金一七〇万八〇八〇円宛を、それぞれ相続により取得した。

(三)  原告等の慰藉料

原告等は、長男である訴外和信の本件事故による無惨な死に遭遇し、その精神的苦痛は極めて甚大であり、これが慰藉料としては、各金二〇万円をもつて相当とする。

五、よつて、原告等は、前記第三項の(二)、(三)の各金員を合算した上、被告等に対し、各自、原告両名に各金一九〇万八〇八〇円及びこれに対する本件事故によつて訴外和信が死亡した後である昭和三七年一一月二二日以降右完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める、と述べ、被告等の主張事実を否認し、且つ本件事故について被告金に過失があつたとの自白の撤回については異議があると述べた。

被告等訴訟代理人は「原告等の請求を棄却する、訴訟費用は原告等の負担とする。」との判決を求め、答弁並びに抗弁として

一、原告の請求原因第一項の事実中、被告姜烱泰が、光神商会なる名称で屑鉄回収業を営んでいることは認めるが、その余の事実は否認する。即ち、被告金は、本件事故発生前である昭和三七年一〇月三〇日被告姜末奉伊から加害車を、代金七万円、当日内金五万円を支払い、残金二万円は、同年一一月末日支払い、これと同時に右自動車の名義を変更するとの約束で買受け、同日金五万円を支払つて、右自動車の所有権を取得し、これが引渡を受け、以来これを使用して貨物の運送業をなしていたものである。

したがつて、被告金は、被告姜烱泰、同姜末奉伊の被用者ではなかつた。

二、同第二項の事実中、被告金が、原告主張の日時場所において、その主張の如き本件交通事故を惹き起したことは認める。なお、被告等は、第一回口頭弁論期日において、本件事故の発生につき、被告金に過失があつたことは認める旨の陳述をなしたが、真実は、被告金に何等の過失もなかつたので、右陳述は錯誤につき取消す。即ち、本件事故は、被告金が、時速五〇粁の速度で進行中、約四〇米前方に訴外和信を発見し、即時、急停車の措置をとつたが、当時道路が滑らかなアスファルトで、細雨に濡れていたのに加え、加害車のタイヤが古く表面がすり減つていたため、三二・五米という通常考えられないスリップをしたことにより発生したもので、被告金の過失によるものではない。

仮りに、被告金に過失があつたとしても、それは極めて軽微である。

三、同第三項の事実は争う。

四、同第四項の事実中、原告等が自動車損害賠償責任保険により金五〇万円を受領したことは認めるが、その余の事実は争う。

五、仮りに、被告等に本件事故について損害賠償責任があるとしても、本件事故現場の如き、歩車道の区別のない道路においては、歩行者は、道路の右側を通行すべき義務があるところ、訴外和信は、左側を通行していたのである。

しかして、本件事故は、右和信が、右の如く、左側通行をしていたことに加え、同人が加害車を発見するのが遅かつたことも、その原因となつているのであるから、右は、和信の過失として、本件損害賠償額の算定に際し斟酌すべきである。

と述べた。〔証拠関係略〕

理由

一、被告金栄洛が、昭和三七年一一月二〇日午後七時一五分頃加害車を運転して、門司市方面から福岡市方面に向つて進行中、福岡県粕屋郡古賀町大字久保花見の国道上において、前方を同一方向に進行する普通乗用自動車を、その右側から追越すにあたり、該国道を対面歩行してきた訴外松尾和信に、その運転する加害車を衝突させ、同人に対し脳損傷頭蓋内出血等の傷害を負わせ、よつて、翌二一日午前一時二八分頃、同人を死亡するに至らしめたことは当事者間に争いがない。

二、そこで、被告等の責任原因について検討する。

(一)  被告姜烱泰が、光神商会の商号で、屑鉄回収販売を業とするものであることは当事者間に争いがなく、〔証拠略〕を総合すると、(イ)被告姜末奉伊は被告姜烱泰の妻であるところ、本件事故当時被告姜烱泰が右光神商会以外にも数種の事業を営み、多忙であつた関係上、同被告から、右光神商会における発注、販売等日常の業務全般を任かされて、これを掌理し、被告姜烱泰は、その相談役的な立場にあつたこと、(ロ)そして、右光神商会が使用する店舗、自動車、電話等の登記或は登録名義等が、いずれも被告姜末奉伊になつていたこと、が夫々認められ、被告姜烱泰の本人尋問の結果のうち右認定に反する部分は、証人金子義夫の証言に照し、措信しない。

右認定事実によれば、被告姜末奉伊も亦被告姜烱泰と共同して、前記光神商会を経営していたものと認めるのが相当である。

(二)  次に、被告金が、加害車を運転して、前記光神商会の業務に従事中、本件事故を惹き起したことは当事者間に争いがなく、〔証拠略〕を総合すると、(イ)被告金は、独立して砂利の運搬業を営む目的で、昭和三七年一〇月三〇日自己の妻の叔父にあたる被告姜烱泰から、当時前記光神商会において、使用中の被告姜末奉伊所有名義の加害車を、代金七万円で、内金五万円を即金残金を同年一一月末日迄に支払い、これと同時に、加害車の所有名義を変更するとの約束の下に買受け、同日内金五万円を支払つて、加害車の引渡を受けたものであること、(ロ)しかしながら、被告金は、未だ運搬業の仕事がなかつたため同日頃から、本件事故発生に至る迄一、二回他から依頼を受け、福岡市内において物品を運送した外は、毎日専属的に右光神商会の屑鉄運送の業務に従事し、その運賃の一部につき、前記残代金の一部と相殺していたこと、(ハ)本件事故当時、加害車の登録名義及び自動車損害賠償責任保険の加入名義が、右光神商会において使用中の他の自動車と同様、いずれも被告姜末奉伊名義であつたのみならず、その車体には、「光神商会」の名称が表示されていて、外観上は、右光神商会の他の自動車と区別し難い状態にあつたこと、が夫々認められ、〔証拠略〕中、右認定に反する部分は、〔証拠略〕に照し措信しない。

右認定事実によれば、被告金は、本件事故当時前記光神商会の運送部門を担当し、同商会の経営者である被告姜烱泰、同姜末奉伊に対し従属的な関係にあつたものと認めるのが相当である。

してみると、本件事故当時における加害車の実質的な所有者は、被告金であるというべきであるが、被告姜烱泰、同姜末奉伊においても、前示認定のような加害車の所有名義その他被告金との関係を通じて、加害車の運行について支配力を及ぼし得る地位にあり、しかも、その運行によつて利益を享受していたものであることが明らかであるから、かかる場合には、被告金については勿論、(被告金が加害車の運行供用者であることは、同被告において自認するところである。)被告姜烱泰、同姜末奉伊についても自賠法第三条の「自己のために自動車を運行の用に供する者」に該当するものと解するのが相当である。したがつて、被告等は、特段の免責事由を主張立証しないかぎり、自賠法第三条本文の規定により訴外和信及び原告等が蒙つた後記損害を賠償すべき責任があるというべきである。

しかるところ、被告等は、本件事故が、被告金の過失によるものではなく、本件事故は、被告金が時速約五〇粁の速度で加害車を運転して、先行車を追越そうとした際、現場が滑らかなアスファルト舗装の道路であつたところ、これが細雨のため一層滑らかになつていたのに加えて、加害車のタイヤが古く表面がすり減つていたため、三二・五米という通常考えられないスリップをしたことにより発生したもので不可抗力によるものであるから、右賠償責任は存しない旨抗争しているので判断するに、右主張の如き状態(路面の状況、加害車のタイヤの状態、加害車の速度)のもとにおいては、その主張の如き加害車のスリップをもつて予測し難いものであつたとは認められず、したがつて、本件事故が不可抗力によるものとは到底考えられない。却つて、本件事故が被告金の過失によるものであることは後記第三項の(三)において認定したとおりであるから、右主張は失当たるを免れない。

よつて、被告等は、各自原告等に対し本件交通事故によつて生じた損害を賠償する義務があるというべきである。

三、次に、損害について検討する。

(一)  訴外和信の損害

1  得べかりし利益の喪失による損害。

〔証拠略〕によると、訴外和信は、本件事故当時満二六才一〇ケ月(昭和一一年一月五日生)の健康な男子で、訴外三機工業株式会社に工員として勤務し、平均して、一ケ月金一万七〇〇〇円の給料と年間を通じ、少くとも金四万六〇〇〇円の手当を得ていたことを認めることができ、一方、右年令、職業、収入と〔証拠略〕によつて認め得る訴外和信の家族及び生活状態殊に本件事故当時、同人が、農業(耕作反別田一町三反、畑二反)を営んでいた父親と同居していたこと、及び総理府統計局の「昭和三七年家計調査年報」によつて認め得る昭和三七年度の全都市全世帯の一世帯(人員数四・二九人)の平均一ケ月間の消費支出(生活費)が金三万八五八七円であつて、一人あたりのそれが金八九九五円であること等を総合勘案すると、訴外和信の一ケ月の生活費が金八〇〇〇円であるとする原告等の主張は相当であるから、右和信は、本件事故当時年額金一四万四〇〇〇円(前示一年間の収入金二四万円から一ケ月金八〇〇〇円の割合による同期間中の生活費金九万六〇〇〇円を控除した額)の純収入を得ていたものというべきである。

しかして、厚生大臣官房統計調査部刊行の第一〇回生命表によれば、満二六才一〇ケ月の男子の平均余命は、四三、二三年であるから、右和信は、本件事故に遭遇しなければ将来なお、右程度の期間生存し得たものと推認し得られるので、右和信の前示の職業、年令、生育環境等の諸事情に照せば、右余命のうち六〇才に達する迄の三三年間稼働し得たものと認めるのが相当であり、右和信は、この間前記割合で収益を挙げ得たものと認むべきである。

そうすると、右和信は、本件事故により三三年間の純益合計金四七五万二〇〇〇円の得べかりし利益を喪失したものということができる。そこで、これを損害発生時の一時払の額に換算するため、ホフマン式計算法に従い、前記稼働期間を通じ各年毎に民法所定の年五分の割合による中間利息を控除すると金二七六万二四一六円(円未満四捨五入)となる。

ところで、原告等は、本件事故について、自動車損害賠償責任保険金五〇万円を受領し、右損害金に充当した旨自陳しているので、これを右損害金から控除すれば、その残額は、金二二六万二四一六円となること計数上明白である。

2  慰藉料

〔証拠略〕によれば、訴外和信は、昭和三〇年に県立鞍手農業高校(定時制)を優秀な成績で卒業し、直ちに、家業の農業に従事し、傍ら居住地の若宮町青年団に入り、団長或は副団長として活躍し、その後、昭和三六年一二月頃前記三機工業株式会社に就職し、以来本件事故に遭遇する迄同会社に勤務していたものであることを認めることができ、右事実と本件事故の原因、態様その他諸般の事情を考慮すると、同訴外人の慰藉料は、原告等が主張する金八〇万円を下らない金額であることが明らかである。

3  〔証拠略〕によると、原告等が、訴外和信の父母であつて、同訴外人の相続人は、原告等のみであることが認められるから、原告等は、本件事故による訴外和信の死亡により右損害賠償債権を、その二分の一である各金一五三万一二〇八円宛相続によつて取得したことが明らかである。

(二)  原告等の慰藉料

原告等は、本件事故によつて子供である訴外和信を喪つたのであるから、原告等が甚大なる精神的苦痛を蒙つたことは明白である。しかして、本件事故の態様、原告等の職業、収入、訴外和信の経歴その他一切の諸事情を考慮すると、その慰藉料額は、原告等が主張する各金二〇万円を下らない金額であることが明らかである。

(三)  過失相殺について

(イ)本件事故現場は、幅員約九・三米で、そのうち中央の幅員約七・六米の部分がアスファルトで舗装された道路であること(ロ)事故当時、その現場附近は降雨と靄のため前方約三〇米しか見透しがきかない状況にあつたこと、(ハ)被告金は先行車を追越すため、時速約五〇粁の速度で、先行車の右側に出て、道路の右側舗装部分の右端寄りを進行中、前方の道路右端(加害車から向つて)を対面歩行してきた訴外和信を発見し、同人との衝突を避けるため、急制動の措置をとつたが、加害車がスリップしたため、同人に加害車の右前部を衝突させたことはいずれも当事者間に争いなく、〔証拠略〕によれば、被告金は約三〇米前方において、訴外和信を発見し、直ちに急制動の措置をとつたが車輪が約三二・五米スリップしたため、前示事故を惹き起すに至つたものであることが認められ、右認定に反する証拠はない。

しかしながら自動車運転者としては、(イ)上記のように、アスファルト舗装の路面が降雨のため濡れて、極めてスリップし易い状態にあり、しかも、加害車のタイヤが古く、表面がすり減つている場合、(この点は、被告等の自認するところである。)には、通常の場合以上にスリップすることが十分予見し得られるから、何時でも急停車し得る程度の速度で進行すべきであり、(ロ)又先行車を追越すに際しては、予め、進路前方を十分注視し、その安全を確認すべきはもとより、本件事故現場のように左側部分の幅員が約四・八米ある道路においては、当時の道路交通法第一七条第四項により、道路の右側部分にはみ出ないように進行すべき義務があるものというべきところ、〔証拠略〕に徴すれば被告金は、右各注意義務を怠り、漫然前記の如く時速約五〇粁の速度で、道路の右側舗装部分の右端寄りを進行して、先行車を追越しにかかつたことにより、本件事故が発生したものであることが明らかである。

そして、右の事実によれば、本件事故は、専ら被告金の右過失に基因するものというべきであり、訴外和信が、当時偶々道路左側を歩行していたことをもつて、同人に過失相殺をなすべき過失があつたとは認め難く、他に、右和信の過失を認むべき何等の証拠もない。

よつて、被告等の過失相殺の主張は、失当であるから排斥を免れない。

四、以上の次第であるから、原告等は、被告等各自に対し、前記第三項の(一)の訴外和信の死亡による損害賠償請求権の相続分各金一五三万一二〇八円、(二)の原告等の慰藉料各金二〇万円、合計各金一七三万一二〇八円及びこれに対する本件事故により訴外和信が死亡した日の翌日たる昭和三七年一一月二二日以降右各金員完済に至る迄民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求め得るものというべきである。したがつて、原告等の本訴請求は、右支払を求める限度において、正当であるが、その余は失当である。

五、よつて、原告等の本訴請求は、右正当なる限度において、これを認容し、その余は、これを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条但書、第九三条第一項但書を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を各適用の上、主文のとおり判決する。

(裁判官 浪川道男)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例